「 ITC化のもたらす東南アジアの政治社会変容」

「 ITC化のもたらす東南アジアの政治社会変容」

京都大学東南アジア地域研究研究所
岡本正明

京大フォーラム講演記念撮影‗20170307

 これまでの15年間、そしてこれからの15年間の東南アジアを考えた時に、決定的に重要なのはICT化があらゆる側面に及ぼす影響である。若年層の大半がすでにスマートフォンを持ち、農村部でのインターネットへのアクセスが常態化しつつある結果、人と人の関係、人とモノ関係、人の空間把握、人の時間把握などあらゆる点で、産業革命以後に生まれてきた人間とは大きく異なるタイプの人間が誕生してきている。あと10年もすれば、IoTのさらなる進化・深化、人工知能の発展により、人とモノとのボーダーが極めて曖昧化していく時代に入っていく。今はまさにこの世紀の転換点にある。したがって、この変化を社会の末端からグローバルなレベルまで詳細に理解しておく必要がある。この変化を理解しなければ、これからの東南アジア理解はほぼ不可能となるであろう。

 そうした極めて深刻な問題意識のもと、政治学者、行政学者、経済学者、IT専門家、ドローン専門家など学際的なチームでICT班を作った。2017年1月23日から27日にかけて、東南アジアにおけるICT化のインパクトについての調査をインドネシアのボジョヌゴロ県、ジャカルタ特別州で行なった。ボジョヌゴロ県は、スマートフォン・アプリを使った参加型開発計画づくりに着手しており、県知事がNGOの支援を得て、さらに村落からボトムアップでオープン・ガバナンスを実現すべくデータ革命を実現しようとしていた。ジャカルタでは、こうした地方レベルでのICT化による社会変容をサポートするプロジェクトを始めた国際NGOであるオープン・データ・ラボ(Open Data Lab)やHivosを訪れて意見交換を行った。いま、まさに、インドネシアにおいてビッグデータの活用やオープン・ガバナンスが始まろうとしていることがよくわかった。

さらに、2017年3月3日には、インドネシアやマレーシアからソーシャル・メディアを積極的に活用して汚職撲滅運動の活性化に努める弁護士、インドネシア初のブログを立ち上げた若手実業家、権威主義体制下のマレーシアでオープン・データに努めるNGO活動家、ドローンも使って森林伐採の空間的把握に努めるインドネシア・リアウのNGO活動家を招聘してセミナーを開催した。民主主義体制を取るインドネシアと権威主義体制を取るマレーシアではICT化のインパクトが決定的に異なり、後者では監視のための道具になりつつある様子が如実にわかった。

また、こうした調査やセミナーの成果を踏まえて、国内や海外で東南アジアにおけるICT化のインパクトに関する講演(2016年9月14日、12月23日、2017年3月7日)を行った。

インドネシア・ボジョヌゴロ県でのデータ革命の試み